フィクション日記

しょっぱい毎日を生き抜くため、妄想力を鍛えています。

曲名がわからない、ニセモノの「シ」

お昼ご飯を休憩エリアで食べていたら、いつもは気にも留めないBGMが耳についた。

 

ドレミファソラシドの音階をずっと繰り返しているような曲なのだが、どうもおかしい。

 

ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ……シ…?

ラの次がシじゃない気がする。ラのシャープなのかもしれない。そしてその次は何事もなかったかのように、高いド。それが延々と繰り返されている。

別に絶対音感とかあるわけじゃないけど、普通の七音ではないのはわかる。

 

これは曲なのか?曲だとしたらなんてタイトルなんだろう。ちょっと斜にかまえて、整列からわざと少しはみ出した感じがちょっと不良っぽい。

 

そんなことをぼんやり考えていたら、隣のテーブルで談笑してた女性2人が何か言いだした。

 

  ねえ、この曲変じゃない?

  え?変ってなにが?

  ほら、ドレミ…ってきて

  …うーん?

  ここだよ、ほら

  …あー、ドレミじゃないねぇ

  でしょ?なんかニセモノ?混じってる

 

え?音にニセモノってあるのか?

そんな馬鹿な。「洋音は全全半、全全全半で構成されています」って、中学校で習ったぞ。しかもシのニセモノってどういうことなの。他の音の立場はどうなった。

 

そんなこちらのパニックなど露とも知らず、その後彼女達はコンビニで買ったであろうパクチーチョコレートなるものをまずいまずいと言いながら食べ、残りを嫌いな上司にやろうとのたまいながら去っていった。嵐のようであった。

 

それにしても気になる。ニセモノの「シ」が使われているこの曲は、なんていう名前なんだろう。

…どうせわからないならつけちゃおうかな。ナナシなんてどうだろう。ナナシのニセモノのシ。なんか詩的だ。

 

休憩が終わり、隣の席の佐藤くんにナナシの話をしてみると、調べましょうかと一言。最近は鼻歌で曲名が検索できるらしい。

 

  それじゃあお願いしようかな

  ぼく、曲わからないので、歌ってください

 

周りが急にシンとする。

 現実がニセモノであってほしいと思う瞬間。